今年はどういうわけか11月になってから、きものを着た女性を多く見かける。三十歳過ぎの自立した女性の装いはなかなかよい。急激に暑い夏から肌寒ささえ感じさせる秋に移り変わり、人びとの心になにか感じさせるものがあるのではないかと推理する。先日一緒に出かけたとき、淡い臙脂のきものを着た女性を見かけて、カミさんが「鮫小紋ね。きっとお茶会にでも行くのでしょうね。」と私に云う。『ははぁ、あの柄を鮫小紋と云うのか。』と今頃私は理解する。正直紬も絣も私はよく解らない。
うちのカミさんは滅多にきものは着ない。少しばかりあるのはもっぱらタンスの肥しになっている。その割にはきものを着た女性に対し厳しい目を向ける。「着方がなってない」というのだ。それほどいうなら、もっと自分が着せて見せたらと思う。たぶん幸田文の『きもの』の主人公るつ子が若い時のように、うまく着こなせないと全部脱ぎ捨てたくなるのかもしれない。
お茶会やら結婚式やら、なにかときものを着る機会が多い11月。国家的行事として11月は『きもの月間』として取り上げたらどんなものか。銀座や日本橋の有名な食べ物屋はきものを着た人は半額にするとか、劇場や美術館は2割引きにするとか。わが国の伝統文化をこのまま廃れさすべきではないと思うのだが・・・