そもそもアラビア半島の赤道よりの先端イェーメンに、川が流れているのだろうかと疑問が生じた。砂漠と岩山があるだけで、雨が降っても川は海へ行きつく前に途中で消えでしまい、『ワジ』(涸れ谷)が見えるだけと私は想像した。グーグルマップでチェックしても河川らしきものが存在しない。しかしシバの女王がいたころ(紀元前10世紀)川はあった。ダムが築かれ、青々とした沃野が穀物を実らせ、その繁栄する領土を求めてローマ皇帝が軍隊を派遣したというではないか。それが近年また石油成金の近隣諸国の援助でダムを建設したようだ。
ダムを造り、川を流し、そこに鮭を放流してフライフィッシングしよう、彼らを海からまた回帰させようという、荒唐無稽なプロジェクトに英国政府が飛びついた。その中東での外交の失敗をぼやかすために。あまりサエない生物学者アルフレッド・ジョーイ博士(ユアン・マクレガー)は、こんなものは全く実現不可能だとハナから見做して、思いっきり法外な要求を突き付けたところ、なんとアラブの富豪シャイフはそれを受け入れてしまった。さあ、いよいよ実行へと動き出した。「計画実行の基本は“Faith”(確信)を持つことだ」と、シャイフの言葉はなかなかジーンとくる。映画はアルフレッドとプロジェクト会社の女性、ハリエット・チェドウォド=タルボット(エミリ−・ブラント)とのロマンスも交えて、ほんわかとした味に仕上がっている。
しかし、この映画の原作が目指したものは、もっと激しいジャブの応酬ではなかっただろうか。原作を読んでいないのでわからないが、画面上にそこらを示すメールのやり取りが少しあった。実際の行動は陰にこもった紳士的スタイルを保持しても、メールでは相手をかきむしるような、あるいはもっと自虐的な言葉の投げ合いが、よりリアルにわれわれの内面を映し出し、この奇想天外なプロジェクトとの落差を強調しているかもしれない。(でもそれが映画をおもしろくするかどうかは疑問だが・・・)
この映画で一番輝いていたのは、英国政府のスポークスマンを務めていたパトリシア・マックスウエル(クリスティン・スコット・トーマス)だったと思う。口八丁手八丁のやり手の女史に、首相すら振り回されている様子がおかしい。日本では菅内閣の時の官房長官・枝野幸男氏にもっと期待していたが、あへなく潰れてしまったのは残念至極。このパトリシアなみの腕力が揮えたならばなあ! 監督ラッセ・ハルストレム