この頃涙腺も老化してきて、この映画、涙があふれ出てきてどうにも止まらなかった。私はもともと泣き虫。恥ずかしい話、感動するとすぐ涙目になってしまう。カミさんと一緒に映画を見ると、こちらがしきりに涙を拭いているのに、向こうはサラッとしているのでいやになることがある。(だから映画は基本的に私ひとりで行く。)
"Think positive."(前向きに考えよう)ということが、幼いころから教え込まれるアメリカ。しかし最愛の父を失った10歳の子供オスカー(トーマス・ホーン)にとって、心の空白を埋めることがどれほど大変なことか。なんと父親(トム・ハンクス)はワールド・トレードセンター崩壊(2001年のあの9・11事件)に巻き込まれて死んでしまったのだ。父を急に失った事態、心がうつろだから思い切り泣くこともできない、叫ぶこともしない。母親(サンドラ・ブロック)も祖母もどうしようもない。あれから一年経っても変わらなかった。乗り物を嫌ったり、人込みを嫌ってガスマスクを着けたり、やや病的な気配はあるものの、祖母の部屋の間借り人、口のきけない老人(マックス・フォン・シドー)と仲良くなった。父親の遺品として見つけた謎のキーの探索に一緒に乗り出した。そしてそこに大勢の愛すべき人々を発見した。みんなからも自分が愛されていることがわかってきた。
脇役も皆よかったが、なかでもマックス・フォン・シドーの演技がなんとも渋い。私は10歳という多感な時に、父親とあんなに濃密な時間を過ごしていたことに、少しうらやましい気持ちさえ持ったが、それにしても大勢の人々を殺した相手に対する呪詛が少しも聞こえなかったのは不思議。それはまるで自然災害に遭ったような感じもした。スティーヴン・ダルドリー監督。