After the Pleistocene

A memory of my ramble
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磯田道史「武士の家計簿」

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 先週株価はニューヨークも東京市場も大きく下げ、1929年の"The Great Crash"を思わせるような相場変動を見せた。1987年のブラック・マンデーや2008年のリーマン・ショックを凌ぐこの株価値下がりで、日経によれば世界株の時価総額は約5兆ドル(約540兆円)減ったと言われるが、すべてがコンピューター操作のためか一向に深刻な感じは出ていない。この1週間で日本株は8.1%安、米国株5.2%、英国株4.7%、中国・香港株9%超えの下落と大きいのに、紛争や難民の問題でも直接わが身に降りかからないとなかなか実感しないというのは困ったものだ。本当に世界はこんなに激しく動いているのだろうか、と。
 若手の歴史家で最近テレビ番組でお馴染になっている磯田教授の本を読むのはこれが初めてで、(映画化もされたが見ていない)ちょっとワクワクしながら手に取った。こんなことは久しぶり。実際この本の行間から、彼の少し甲高い声が聞こえてくるような楽しみを味わった。加賀藩の会計処理を扱った下級武士猪山家の天保(1842年)から明治12年(1879年)までの家計簿をつぶさに検討、当時の金沢城下にタイムスリップして、現在の物価と照らし合わせまでしている。磯田は猪山家の入払帳を表計算ソフトExcelに入れて、その家計収支を見た。『猪山家の人々にしてみれば、百六十年たって、自分のつけた家計簿がパソコンで電算処理されるとは、夢にも思っていなかったであろう。』と機嫌よく記している。
 前田家の加賀藩はそんなに貧しい藩ではなかったと思うが、それにしても年収の2倍の借金を猪山家が背負っているというのは苦しい。よく思い切って家財を売り借金を減らし、生活もかなり切り詰めた思うが、息子がさらに高給を得られる立場に立てたのも幸いしている。(明治に入っては、一般の士族が困窮する中に、海軍に出仕して最高の高給取り「官員」となった) 江戸幕府から明治新政府へ大きく時代が変わるときに、個人もまた否応なく変化しないではいられないことを、武士の家計簿からも読み取れる。私は当時の武士が自分の知行地を知らなかったということにびっくり仰天した。武家支配とはなんっだったのだろうと考えさせられた。
| Book | 23:14 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
東山彰良「流」

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 私は高校時代非常に偏った読書歴を持ったため、大学に入ってからもその影響からなかなか逃れることができなかった。そのひとつがアグネス・スメドレーの「偉大なる道」だ。中国共産勢力の、本当は惨憺たる敗走を見事な勝利への助走と位置付けた長征、朱徳将軍や毛沢東への賛辞、農民から針一本盗まなかったという紅軍の規律などなど。それからエドガー・スノーの「中国の赤い星」。だから一方的に蒋介石を悪人扱いしていた。実際彼は青パンの杜月笙と刎頸の交わりをしていた。アヘンを密かに生産していたし、あの台湾に押し入ってメチャクチャにしたと。しかしだんだん蒋介石も一個の英雄。日本を泥沼の戦争に引きずり込んだのは彼のなせる業と思うようになった。共産中国も大飢饉に対処できず何百万と人民を殺している。知らぬ存ぜずでは見逃せない大きな数字である。
 この小説は自分たち仲間と不良仲間との抗争、町のチンピラとの抗争、そして自分の祖父たち国民党が青島で戦った共産勢力との抗争の三つの抗争を、祖父の変死を軸に描いている。なぜこんな無残な姿で祖父は殺されねばならなかったのか?ここには三民主義も共産主義も出てこない。日本のアコギな侵略思想も優れた植民地統治もあまり顔を出さない。あの戦争は何だったのか、主人公・葉秋生が負ったと同じような自傷的な側面が見えてくる。
 
| Book | 21:07 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
激化するサイバー攻撃

JUGEMテーマ:読書


 先日ビデオで「ユウ・ガット・メール」を見ていたら、『サイバー・セックス』なる言葉が出てきた。このメグ・ライアンとトム・ハンクスが主役のハリウッドのメロドラマは1998年製作だから、いまさら『サイバー』を取り上げるのも可笑しいが、いまでは『サイバー・ポルノ』という現象もあるらしい。
 わが国の選挙ではまだ聞かないが、昨年のアメリカ大統領選挙ではロシアが発信源の『サイバー攻撃』が行われたらしい。ヒラリー・クリントンに対し「パーキンソン病を患っているという事実を隠している」とか、「ローマ法王がトランプ支持を公言している。」とか、デマ情報をフェイスブックやツィッターを通じて流したらしい。クリントンは全国集計の個人票では280万票も上まっているのに、選挙人の数では232対306でトランプに負けている。 (参考)勝ち取った州の数でもクリントンは19対29で敗れた。ミシガン(16)ペンシルベニア(20)ウィスコンシン(10)の敗北が痛かったようだ。
 山田敏弘著『ゼロデイ』によれば、この選挙のさなかハッカーが民主党全国委員会の幹部のメールを盗んで暴露する挙に出た。この本に依れば、ソフトウェアのセキュリティ上の欠陥でまだ世間に知られていないものを『ゼロデイ脆弱性』と呼び、どうも高値で取引されているらしい。世界で最も「ゼロデイ」を購入している組織はアメリカ国防省だという。
 マーク・マゼッティの『CIAの秘密戦争』によれば、2004年アフガニスタンのムジャヒディーン、ネク・ムハマンドは、かれの衛星電話を傍受したCIAによって彼の居場所が突きとめられ、プレデターから発射されたミサイルで殺された。彼は絶えず正体不明のドローンに付きまとわれていたようだ。ムジャヒデイーンの幹部は通信機器をわが身の傍に置かないようにしているともいう。9・11惨劇以降、情け無用の攻撃が飛び交わっている。2009年にはイランの核燃料施設で遠心分離機が制御不能となって停止した。これもアメリカのサイバー攻撃だった。2007年のエストニア、2008年のジョージアへの金融機関への攻撃はロシアによるものとみられる。電力や水道に対してもサイバー攻撃が行われたとみられる。今後北朝鮮のミサイルにもどんなサイバー攻撃が可能なのか、非常に知りたいところでもある。
 さらに2013年エドワード・スノーデンは、グーグルでもヤフー、マイクロソフトでもほぼ全てのIT企業が、すべての個人情報をNSA(米国家安全保障局)に与えているという極秘情報を暴露した。勿論利用者の許可など取っていない。われわれの行動は逐一監視されていると考えなければならない。しかしそれならば今年2017年5月、ヨーロッパを中心に15か国約20万件の被害を発生させたWannaCry"などのサイバー攻撃に、もっと素早い反撃ができてもよかったのではないか。(どうもこちらの手の内を簡単には見せられないらしい。)
| Book | 22:42 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
高木芳徳「トリーズの発明原理40」

JUGEMテーマ:読書


 この猛暑の時期に、ちょっと難しそうなテーマにトライするのも私の消夏法のひとつ。わかってもわからなくてもよい、凡そどんなことを論じているのを知るだけでも頭の体操になると思っている。
 1950年代のロシアのゲンリッヒ・アルトシューラーという特許審査官が、約200万件の特許審査案件に接して、その問題解決の手法を僅か40の原理にまとめた。第二次世界大戦を勝利してアメリカに先駆けてロケットを宇宙に飛ばしたようなソ連の先端技術をリードしたこの原理が、90年代以降ソ連の崩壊に伴って西欧諸国に流出した。多くの発想法が、主観的仮説のまま終わっているか、せいぜいが「実際に使ってみて実績が上がった」という定性的評価にとどまっているのに対し、アルトシューラーは、この原理を用いて出願された特許の「定量的検証」を行っていた。私は本当に爛好乾ぁ蹐海箸世隼廚Α
 それぞれの原理の説明はイラスト入りで分かりやすい。例えば4番の非対称性原理の場合、パソコンのコネクターを台形にしたり、突起を設けるなどしてさかさまに入らないようにする、など通常考えられる対称性を崩して非対称性を考えるとあっさり問題解決する例。7番の入れ子原理の場合、フォルダーの入れ子構造のおかげで大量のファイルを管理できる例など。14番の局面原理は非常に使い勝手の良い原理で巻き尺や自転車に利用されている。30番の薄膜利用原理の例に小籠包やケーキなどがあげられていておもしろい。薄膜で物質を覆い、内側と外側を分離したり、薄膜を丸めたり重ねたりすることで三次元構造を作り、問題を解決する方法だ。
 私のような気が早い読者は、「『トリーズの発明原理』はわかった、では発明の現場で実際にはどう使うのか?」とすぐ早合点してきそうだ。そのあたりを第3部の発明原理実践編が触れているのだが、少し簡単すぎて私には理解できなかった。これは稿を改めてぜひ続編に期待したい。この原理の失敗事例などもきっとたくさんあるに違いない。私の空想科学では、「エラ呼吸がどう肺呼吸に進化したのか?」とか、「4脚歩行がどう2足歩行に進化したのか?」など進化論の問題まで幅を広げてみたい。
 
| Book | 12:48 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
赤坂憲雄「婆のいざない/地域学へ」
 多分 水木しげるの爛殴殴欧竜澗析此蹐發海侶鷲茲坊劼ると思う『一つ目小僧』は、山陰地方を中心とした製鉄や水銀製造など鉱業に長じた種族が元祖らしい。谷川健一によるとたたら(ふいご)を吹いて火の加減を見るこの人たちは、片目しか使わないことによってこのような奇形が生じたともいう。『メッカチ』なる蔑称も『眼鍛冶』からきていると知った。出雲地方のたたらと言えば『ヤマタノオロチ』も連想する。ヤマトタケルノミコトはおそらく出雲のこの集団を征服したのであろう。しかしその集団は日本全国に散らばって、その異能ぶりを発揮したに違いない。
 約二千年前ごろからこの日本に広がり始めた稲作農民(弥生人)は、次第に縄文人たちを山地に追い上げて大和朝廷を形作ったとは、この著者は解説していないが、民俗学の泰斗柳田国男と折口信夫の間で、村祭りの起源について激しい衝突があったと示す。
 「柳田ははじめに家の神があり、家の信仰があり、それがしだいに拡大することで村の祭りになり、さらには、地域の、また国家の祭りへと拡大していった。」のに対し、折口は「はじめにあるのは家やムラではなく、ムラとムラのはざまを漂泊する異人たちであり、訪れ人でした。神を背負って村々を訪れるマレビト、それは同時に宗教者であり、芸能者でもありました。」として、はじめにマレビトありきとしたのです。まつりはまつりごと、(すなわち芸能は政治に直結します。)『斉家治国平天下』をモットーとするなら、山地の遊民に祭りを任せる訳にはいかないと思うのも尤もだが、江戸幕府以前では国家の締め付けがゆるく、平地の民と山地の民が自由に往来していたことが次第に判明してきた。すなわち、赤坂は折口説に軍配を上げているのだが、今後中央集権的な要素に縛られない、それぞれの地方が持っている自然や風土、歴史や文化などを掘り起こして多元的な開かれたアイデンティティを作り出してゆきたい、そのために『地域学』『東北学』を推し進めてゆきたいと著者は願っている。東北大震災以降著者の意向がどう変化したのかも知りたいところである。

| Book | 23:19 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
リチャード・ドーキンス 「進化とは何か」
 チャールズ・ダーウィンも非常に興味を持った如く、『眼』の進化は確かに動物の生態に大いに影響を与えたことだろう。真っ暗闇に漂っているより、近づいてくる物体を明暗で判断するようになり、さらにその陰影で、さらにぼんやりとしていてもその形態で、さらにその色彩で判断できるように、漸進的に眼は進化したであろうと思われるが、3億5千年前の生物アンモナイトはすでにピンホール型の眼を持っていたようだ。
 ドーキンス博士は、生物はどうやって完璧な姿に進化したのかという問題を、金貨が詰まった簡単なダイヤル錠の例を使って説明する。三ケタの1から6までのダイヤルは最大216回の試行で開くが、各ケタで当選のナンバーに至ったとき、ほんの少しだけ、中の金貨をこぼす仕組みになっているなら、最大たったの18回で完全に開く。僅かづつ幸運を引き寄せる仕組みは、奇跡を巻き起こす。コンピューター上に眼のモデル(平面上の網膜から現在のわれわれの眼のように完成する)をくみ上げて計算したところでは、最大たったの25万世代の短い時間で進化が完成した。動物の1世代はほぼ1年くらいなので、約25万年。これは地質学的時間では非常に短時間のことだ。
 ダーウィニズムというのは非常にゆっくりとした小さな変化の積み重ね現象で、盲目的で無意識なプロセスと説明される。そしてわれわれの人生スパンではどの方向に人類は向かっているのかわからないことが非常にイラつかせる。トランプ勝利後世界はますます波乱含みとなってきた。先月約39光年先に7個の地球型惑星の可能性を持つ天体、トラピスト1が発見されたのは明るいニュースだろう。

| Book | 22:25 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
「6度目の大絶滅」
 映画「インフェルノ」では、大富豪で遺伝学者のバートランド・ゾブリストという人物が、地球が人口過剰で破滅するのをこのまま傍観するより、猛毒の「インフェルノ・ウィルス」で今の人口を半分以下に削減してそれを食い止めよう、という全くメチャクチャな論理を振り回し、ラングドン教授を翻弄する。科学技術の発展は素晴らしいがそれ以上に人間の自然破壊は凄まじくて、このままでは6度目の地球大絶滅を招来するというのだった。
過去5回の大絶滅で一番有名なのが今から6500万年前、白亜紀の終わりにユカタン半島に落ちた大隕石よるもの(定説)だが、ここで権勢を極めた恐竜たちが死に絶えた。それでも生物の死亡率は70%で、ペルム紀末の絶滅(第三回目)と比較するとまだ明るい。この2億5千年前の絶滅では、95%の生物相が消えたと言われている。(原因は大陸大移動説)しかし700万年前に出現したわれわれ人類の祖先にとっては、遠い昔のことだった。
 元ニューヨーク・タイムズの記者エリザベス・コルバートが書いたベストセラー『6度目の大絶滅』は、現にこの世界で今6度目の大絶滅が進行していると警告を発する。海水が酸性化してサンゴが溶け始め、その1/3が死滅し始めている。地球温暖化の影響は植物相や動物相に莫大な被害をもたらし、哺乳類の1/4、植物相の1/2が絶滅の危機に瀕しているという。私にはピンとこないが、2050年までに100万種が絶滅するだろうとBBC放送などが伝えている。一方世界の人口は2050年には96億人に達するだろうと推測されている。(2011年70億人)
私はこの本にしてもトーマス・フリードマンの『グリーン革命』などを読んでも、地球環境の激変から生じる人間社会の未来については正直あまり関心を持てない。むしろ暴言を吐くドナルド・トランプ氏の今後の動向が気になってしょうがない。彼以外でもポピュリズムの政治家が世界のあちこちで頂点に立っている。問題は大統領の椅子に座ったトランプ氏が誤って核ボタンを押してしまうような事態になりはしないかということだ。民族紛争や宗教戦争、それに資源の争奪戦と心配の種は尽きない。正月休みは河野和男氏の『カブトムシと進化論』をゆっくり読んでいたい。
| Book | 23:06 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」
 リオ・デ・ジャネイロのオリンピック開会式を見ていて、選手たちが手に手にスマホをかざしながら入場してくる姿にちょっと驚いた。以前の8ミリや普通のデジカメを持った人は少ない。盛んにスマホで自撮りをしている。次回の東京オリンピックでは、ウエアラブルなビデオカメラやカメラ付きゴーグルを付けて選手は入場してくるかもしれない。この長い題名の本は、イタリアのウンベルト・エーコとフランスのジャン=クロード・カリエールの二人の碩学による、最近の電子機器の発達で書物が絶滅するのではないかと未来学者が発言するのに触発されて企画された対談だが、むしろ書物について日ごろの蘊蓄を傾けた楽しいおしゃべりになっている。
 『書物はもちろん読まれるたびに変容します。それは我々が経験してゆく出来事と同じです。偉大な書物はいつまでも生きていて、成長し、我々とともに年を取りますが、決して死にません。』とカリエールが語る。焚書の刑を科しても決して本はなくならないし、読まれなくてただ書架に積んでおくだけでも書物の価値が出てくるという。実際題名だけは知っていても、読んでない本がなんと沢山あることだろう。確かに本棚はワインセラーに似ている。
 ポルトガルのコインブラの図書館でのエーコの経験談がおもしろい。インキュナブラ(15世紀半ばから16世紀初め頃の初期の印刷技術で作られた稀覯本)など貴重な書物に囲まれた一室で、机にフェルト布が被せられていたので、これは何かと尋ねたところ、蝙蝠の糞から本を守るためと図書館員はいう。蝙蝠を退治したらというと、蝙蝠は紙魚を食べてくれるから駆除しないという。更に紙魚もまたどのようにページの内部を食っていって、どのように製本されたのか、新しく差し込まれたページがないかどうかも教えてくれるので、ないがしろにはできないという話をエーコは聞いた。書かれている内容とともに、本そのものの成立が物語になっている。
 
| Book | 17:41 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
80年目の2・26事件 (続き)
 『統制派』と『皇道派』との抗争が5・15事件(1932)を起こし、さらに2・26事件(1936)に至ったと言われる。どうしてこんな血なまぐさい手段しか『皇道派』は採れなかったのか。しかしこの事変が生起せず、もし彼らがに軍事と政治の実権を握ったとしたら、その後に続くあんな惨めな戦争は起こさなかったし、戦うにしてももっと手際のよい作戦を展開したのではないかとの好意的な想像が沸き上がるかもしれない。だが石原莞爾に罵倒されたごとく、荒木にしても真崎にしても大言を吐くだけで、頭の中は空っぽでそんな構想が練られていた形跡は全くない。結局は「皇軍」相打つ壮烈な戦闘がその後繰り広げられたかもしれない。
 昨年末、民族学者のベネディクト・アンダーソンがインドネシア、東ジャワのマランでひっそり亡くなった。当時の新聞報道を覗いてみると、12月16日に山本信人教授が読売新聞に追悼文を書いているだけで他は見当たらなかった。長年インドネシアでナショナリズムを研究し、あの9・30事件に遭遇し、国外追放されていた学者が、久しぶりに(30年ぶり)戻った先で暗殺されたのではないか、と思ったのは私だけではないだろう。(その後心不全で死亡と報道在り。)
 1965年9月30日に起きたインドネシアのクーデター騒ぎは凄まじい暴力をその国内にまき散らした。死者50万人とも300万人とも称され、行方不明者数知れず、スカルノ大統領はロボトミー化してトップにいるものの、いわゆる革命・反革命の波はとどまるところを知らなかった。2・26事件という我が国のクーデターにおいても、いったん火をつけられた日頃の鬱憤が反対勢力をリンチする凄惨な場面を恐怖しないではいられない。
| Book | 21:02 | comments(0) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
80年目の2・26事件
 昭和天皇は1926年末25歳で即位したが、その5年前大正10年から摂政として波乱の国政を見始めた。原敬首相が暗殺され、関東大震災が見舞い、世界経済恐慌が勃発する大変な時代だった。満州出先の関東軍が実際は引き起こした張作リン暗殺事件を、田中義一首相が虚偽の報告をしたため、怒って首相に辞表を提出させた若い天皇を80歳の元老西園寺が諫めた。立憲政治を目指す明治憲法の精神に則って、内閣が決めた事柄には異論を挟まないようにと。しかし1936年2月26日に起きた近衛兵の反乱に対しては、『わが股肱の臣をよくぞ・・・』殺してくれた、と再び激怒した。反乱がともかく鎮圧されて、『反乱将校に自決を勧めるにあたって勅使を賜りたい』という山下奉文(陸軍省軍事調査部長)等の願いも、天皇は『自殺するならば勝手に為すべく』として冷たく突き放した。
 昨年来本屋さんの店先には『昭和天皇実録』がうず高く積まれている。各巻厚さ5cmはある見た目にも重々しい書籍を横目で見ながら、「これはちょっと歯が立たないなあ!」と諦めていたところ、文春から「『昭和天皇実録』の謎を解く」が出たので早速覗いてみた。半藤一利、保阪正康、御厨貴、磯田道史、いづれも昭和史については一家言ある4人の対談を編集したものだ。この『実録』の実際の書き手『エース』が誰であるか、気にはしているが、従来の通説と外れていないことを皆認めている。
 2・26事件は最大の山場のひとつと言ってよいだろう。主要閣僚を惨殺し、警視庁や新聞社まで抑えた近衛師団将校の企みはほぼ成功したと言える、ただ皇居を占拠して天皇を確保することができなかった点を除いては。海軍や地方の師団から反発の声が上がったが、反乱将校たちに次は何をするのかという具体的なプランがなかった。(そして通信が漏れていた。)邪魔な上層部を取り除けば、後はまともな政府が『天皇親政』によって“自然と”立ち上がってくるだろうと楽観的な観測に基づいていたようだ。招集された軍事参義官で大将の荒木貞夫や真崎甚三郎、さらに本庄繁侍従武官長にしてもかれらの仲間と言ってもよい皇道派の上司だったが、結局彼らが反乱軍を説得する形で事態の収拾を図るしかなかった。『天皇親政』を目指したクーデターの目論見は、昭和天皇の強い意思表示によってあえなく最後は挫折した。しかしこのクーデター騒動(残虐行為)は、その後トラウマとなって大元帥としての強権を容易に発揮できないほど強い影響を与えたようである。そして必要以上に頼らざるをえなくなった『統制派』の東条ほど昭和天皇に擦り寄った人物はない。しかし昭和天皇が陸軍内部の軍閥抗争について、どれほどご存知であったか推量できる資料はない。
 
 

 
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